第一章──果汁20%

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檸檬(レモン)。 ビタミンCを豊富に含んだ楕円形の果実。 特徴は、なんといっても独特の酸味だろう。 その用途は様々であり、例えば揚げ物、例えば紅茶、その他もろもろ。 いわゆる名脇役である。 前述したように、確かに豊富にビタミンCを含んではいるが、その含有量は意外にもユズやグレープフルーツに劣る。 しかし世間ではまるでビタミンCの代名詞のように檸檬はもてはやされているわけだ。 勿論、檸檬が、 「違う! 誤解だ、俺はみんなの思っているほどビタミンCを含んでなどいない!」 と、叫べる筈もなく、世間から誤解されっぱなしの、どこか悲しい果実なのだ。 以上。 俺が昨日宿題の合間になんとなく気になってWikipediaで調べた、檸檬に関する無駄知識でしたとさ。 結果、調べても虚しくなるだけだったのだが……何故なら、その悲しい果実──檸檬とは、俺の名前なのだから。 違う、違うぞ、俺は果実ではない。 れっきとした人間、十六歳の高校男児だ。 まるでアニメの美少女キャラのような名前を授かったわけだが、この名前自体はもうそこまで恥ずかしくもない。 自己紹介の時に、 「……れ、れもん?」 と二度聞きされ、明らかに吹き出すまいと笑いを堪える相手にも、もう慣れた。 ただ一つ、納得いかないというか、認めたくない事がある。 名前は檸檬、そして苗字は古津。 つまり俺のフルネームは古津檸檬。 これで、何故両親が俺に檸檬などという名前をつけたのか、少しは分かっていただけただろうか。 古津──フルーツ。 あぁ……恥ずかしすぎる、自分で言うのが一番恥ずかしい! 何が恥ずかしいって、こんな安易なネーミングセンスの持ち主が俺の両親ってことが一番恥ずかしいわ! そして何故フルーツと考えて、まず檸檬をチョイスした! 長男だぞ、俺長男だぞ!? 駄目だ、あの両親の思考回路は全く読めない。 というか、読もうとすることそのものが間違っているような気がしてきた。 ほら、フルーツと言えばもっと他にあるだろ……葡萄とか、林檎とか、桃とか……蜜柑とか、さ。 「あんた今、私の名前を心中で呼んだでしょ」 「急にエスパー!?」 「違うわ……あんた今、私の名前を心中で呼びましたよーって表情してたから」 「俺どんな表情してたんだそれ!?」 そう、今目の前にいる無愛想な女の名前は、蜜柑。 甘味蜜柑。
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