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檸檬(レモン)。
ビタミンCを豊富に含んだ楕円形の果実。
特徴は、なんといっても独特の酸味だろう。
その用途は様々であり、例えば揚げ物、例えば紅茶、その他もろもろ。
いわゆる名脇役である。
前述したように、確かに豊富にビタミンCを含んではいるが、その含有量は意外にもユズやグレープフルーツに劣る。
しかし世間ではまるでビタミンCの代名詞のように檸檬はもてはやされているわけだ。
勿論、檸檬が、
「違う! 誤解だ、俺はみんなの思っているほどビタミンCを含んでなどいない!」
と、叫べる筈もなく、世間から誤解されっぱなしの、どこか悲しい果実なのだ。
以上。
俺が昨日宿題の合間になんとなく気になってWikipediaで調べた、檸檬に関する無駄知識でしたとさ。
結果、調べても虚しくなるだけだったのだが……何故なら、その悲しい果実──檸檬とは、俺の名前なのだから。
違う、違うぞ、俺は果実ではない。
れっきとした人間、十六歳の高校男児だ。
まるでアニメの美少女キャラのような名前を授かったわけだが、この名前自体はもうそこまで恥ずかしくもない。
自己紹介の時に、
「……れ、れもん?」
と二度聞きされ、明らかに吹き出すまいと笑いを堪える相手にも、もう慣れた。
ただ一つ、納得いかないというか、認めたくない事がある。
名前は檸檬、そして苗字は古津。
つまり俺のフルネームは古津檸檬。
これで、何故両親が俺に檸檬などという名前をつけたのか、少しは分かっていただけただろうか。
古津──フルーツ。
あぁ……恥ずかしすぎる、自分で言うのが一番恥ずかしい!
何が恥ずかしいって、こんな安易なネーミングセンスの持ち主が俺の両親ってことが一番恥ずかしいわ!
そして何故フルーツと考えて、まず檸檬をチョイスした!
長男だぞ、俺長男だぞ!?
駄目だ、あの両親の思考回路は全く読めない。
というか、読もうとすることそのものが間違っているような気がしてきた。
ほら、フルーツと言えばもっと他にあるだろ……葡萄とか、林檎とか、桃とか……蜜柑とか、さ。
「あんた今、私の名前を心中で呼んだでしょ」
「急にエスパー!?」
「違うわ……あんた今、私の名前を心中で呼びましたよーって表情してたから」
「俺どんな表情してたんだそれ!?」
そう、今目の前にいる無愛想な女の名前は、蜜柑。
甘味蜜柑。
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