第一章──果汁20%

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かんみみかん。 回文になっていそうでなっていない、ややこしい名前の女だ。 ちなみに俺のご近所さんであり、幼馴染みでもある。 物心ついたときから、もう俺の頭の中には、甘味蜜柑という名の女は、友達として認識されていた。 蜜柑の親も、そのネーミングセンスから分かるように、うちの親とどっこいどっこいな親だ。 そのせいか、どうもうまが合うようで、昔から家族ぐるみで仲良くしているってわけだ。 現在、時刻は八時。 場所は校門前。 俺と蜜柑は、どちらからというでもなく、ごく自然に毎朝一緒に登校している。 別にいなければ先に行くし、いれば一緒に登校する。 そんな曖昧な関係を、かれこれ小学生のころからずーっと続けているのだ。 そういう関係、俺はなかなか気に入っている。 蜜柑といると楽しいし、なんといっても沈黙を不快に感じない。 そのへんの男友達よりよっぽど心許せる友達だ。 もしかして、これを親友と呼ぶのだろうか。 「さっきから気持ち悪い事考えてないで、ほら、遅刻するわよ」 「やっぱりエスパー!?」 「だから、あんた今気持ち悪い事考えてますよーって表情してたから」 「俺明日から鏡持ってくるわ! 自分の表情が気になって仕方がない!」 というか、それはどういう表情だ。 とまぁ、いつものようなたわいもない会話を交わしながら、俺と蜜柑は校舎の昇降口へと向かった。 蜜柑は常に険しい表情をしているというか、むっつりしていてあまり笑ったりはしない。 と言っても嫌な奴というわけではないのだ。 話しかければ応えてくれるし、たまに、ごくたまにだが、笑ってもくれる。 ……前に、俺の前で笑ってくれたのって、何年前だったっけか……。 今日もいつも通りのショートカットの髪に、蜜柑のような鮮やかな橙色の髪留めで前髪を上げている。 幼馴染みの俺が言うのもなんだが、なかなか……可愛いものだ。 校舎の入り口では、ぞろぞろと生徒たちがゆっくりとした足取りで歩いており、その光景がどうしようもなく、俺の今日一日のやる気を削ぎ取っていく。 まだ始まったばかりなのに、だ。 一つため息をこぼし、自分の上履きが入っている下駄箱へ足を向けようとした時、背後から、俺の気分とは裏腹に物凄く元気の良い声が聞こえてきた。 「うっす! おはよー、柑橘(かんきつ)類! 今日も朝から爽やかだねぇ!」  
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