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なんかもう腹が立つくらい元気なその声を聞いて、声の主が誰かは分かっていたのだが、一応振り向いて軽く手を挙げた。
「おう、おはよう桃。 そしてその呼び方はやめろ」
振り返った俺と蜜柑に、はち切れんばかりの笑顔を向けていたのは、糖堂桃。
笑顔が似合う、人懐っこい奴だ。
年齢的に青年と呼称するのが正しいのだとは思うが、青年というよりは少年と言ったほうがしっくりくる。
一体こいつの元気は、どこから来るんだろうな……尊敬するよ。
ちなみに柑橘類というのは、俺と蜜柑一セットで呼ぶときに桃が使う呼び方だ。
なんで柑橘類かというと……って、これは説明するまでもないかな。
檸檬も蜜柑も柑橘類の果物だからだ。
あ、説明しちゃった。
「えー、いいだろ柑橘類! 我ながらいいネーミングだと思うんだけど」
どうやら、俺の周りには、ろくなネーミングセンスの持ち主がいないようだ。
「それにしてもお熱いねー柑橘類! 朝から見せつけてくれちゃってヘブッ!」
蜜柑の蹴りを腹部にくらった桃は、綺麗な弧を描いて吹っ飛んだ。
倒れる桃を見下すように、蜜柑は呟く。
「次言ったらあんたの爪、完全に剥がれない程度に剥ぐから」
物凄く怖いんですけど……俺の幼馴染みは拷問師か何かでしょうか。
剥がないんだ……完全には剥がないんだ……。
想像しただけで痛い。
「じゃあね檸檬」
「お、おう」
俺を一瞥し、蜜柑は足早に自分のクラスの教室へと向かって行った。
別にそこまであからさまに拒絶しなくても……俺と蜜柑が付き合うとか、そういう関係になるわけが無いしな。
長年一緒にいすぎて、もう家族みたいな存在になってるわけだし。
「なるほど、これがツンデレってやつだな」
「その思考回路がうらやましいわ!」
桃は、何事もなかったかのように立ち上がり、蜜柑に向かって手を振っていた。
どんだけタフなんだよお前はさ。
「さて行こうかレモネード!」
「わー、夏には最適な飲み物だねー、って馬鹿野郎! ……しまった、ついうっかりべたな乗りツッコミを」
「冗談だよスカッシュ」
「かっこいい! なんかかっこいいけど言うならレモンスカッシュだろ!? スカッシュってなんだよ、もはや名前の一文字も入ってないだろうが!」
「レモンってスカッシュの枕詞だぜ?」
「嘘をつくな!」
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