第一章──果汁20%

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なんかもう腹が立つくらい元気なその声を聞いて、声の主が誰かは分かっていたのだが、一応振り向いて軽く手を挙げた。 「おう、おはよう桃。 そしてその呼び方はやめろ」 振り返った俺と蜜柑に、はち切れんばかりの笑顔を向けていたのは、糖堂桃。 笑顔が似合う、人懐っこい奴だ。 年齢的に青年と呼称するのが正しいのだとは思うが、青年というよりは少年と言ったほうがしっくりくる。 一体こいつの元気は、どこから来るんだろうな……尊敬するよ。 ちなみに柑橘類というのは、俺と蜜柑一セットで呼ぶときに桃が使う呼び方だ。 なんで柑橘類かというと……って、これは説明するまでもないかな。 檸檬も蜜柑も柑橘類の果物だからだ。 あ、説明しちゃった。 「えー、いいだろ柑橘類! 我ながらいいネーミングだと思うんだけど」 どうやら、俺の周りには、ろくなネーミングセンスの持ち主がいないようだ。 「それにしてもお熱いねー柑橘類! 朝から見せつけてくれちゃってヘブッ!」 蜜柑の蹴りを腹部にくらった桃は、綺麗な弧を描いて吹っ飛んだ。 倒れる桃を見下すように、蜜柑は呟く。 「次言ったらあんたの爪、完全に剥がれない程度に剥ぐから」 物凄く怖いんですけど……俺の幼馴染みは拷問師か何かでしょうか。 剥がないんだ……完全には剥がないんだ……。 想像しただけで痛い。 「じゃあね檸檬」 「お、おう」 俺を一瞥し、蜜柑は足早に自分のクラスの教室へと向かって行った。 別にそこまであからさまに拒絶しなくても……俺と蜜柑が付き合うとか、そういう関係になるわけが無いしな。 長年一緒にいすぎて、もう家族みたいな存在になってるわけだし。 「なるほど、これがツンデレってやつだな」 「その思考回路がうらやましいわ!」 桃は、何事もなかったかのように立ち上がり、蜜柑に向かって手を振っていた。 どんだけタフなんだよお前はさ。 「さて行こうかレモネード!」 「わー、夏には最適な飲み物だねー、って馬鹿野郎! ……しまった、ついうっかりべたな乗りツッコミを」 「冗談だよスカッシュ」 「かっこいい! なんかかっこいいけど言うならレモンスカッシュだろ!? スカッシュってなんだよ、もはや名前の一文字も入ってないだろうが!」 「レモンってスカッシュの枕詞だぜ?」 「嘘をつくな!」  
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