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疲れる。
こいつといると疲れるんだ。
……楽しくないわけじゃないけどな。
ちなみに、蜜柑とは別のクラスだが、俺と桃は同じクラスだ。
ふと時計を見ると、そろそろ本格的に遅刻しそうな時間になっているではないか!
桃のせいだろ、確実に桃のせいだ。
「安心しろ檸檬! あの時計、昨日俺が少し遅らせておいたんだ」
「遅らせてどうする! 走るぞ!」
俺と桃は、廊下を走ってはいけないという教えを完全に無視し、俺は焦りながら、そして桃はどこか楽しそうに笑みを浮かべながら、全力疾走した。
俺達の高校は、担任教師が教室に入るよりも先に教室に入れば、遅刻は何とか免れることができる。
幸い、廊下には教師は誰一人おらず、このまま走っても注意はされそうにない。
が、しかし。
逆に考えれば、もうすぐ始業のチャイムが鳴ろうとしている時間帯に、廊下に教師が誰一人としていないのも逆に不自然だ。
もしかして……もう各教室内に入っているのだろうか。
そうなってくるとやばいな……先に教室に入られていたら、もう誤魔化しがきかない。
と、ここまで考えて、俺はある一つの可能性に気が付いた。
そうだ、俺らの担任は普通じゃない。
かけるか、担任の異常なまでのドジッ子ステータスに!
俺らの内申点がかかっているんだ……期待に応えてくれ、先生!
「さん……にー……いち!」
自分の腕時計を確認しながらカウントダウンする桃。
そして、カウントダウンの終了と同時に、校内にチャイムが鳴り響いた。
「おぉっ! 凄くね!? 俺今カウントダウンぴったりだったぜ!?」
「遅刻という名の死へのカウントダウンだけどな!」
くそっ、教室はもう目の前だったってのに……ん?
半分諦めてため息をついたその時だった。
一直線の廊下の突き当たり──丁度俺達と対象の位置にいる人物が目に入った。
その人物は大量のノートやプリントを山のように抱え、危なっかしい足取りで歩いている。
間違いない……あの教師とは思えない凶悪な顔、同じく教師とは思えないごつい体格、そしてさらに同じく教師とは……というか一般人とは思えないこのオーラの持ち主は……。
「あっ! 先生おはよー!」
「馬鹿か、お前は馬鹿なのか!」
まだ俺達に気付いていなかった人物──俺達の担任の先生に、桃は大きく手を振り、笑顔で挨拶をした。
うわぁ……気付かれずに素早く教室の中に入れば、なんとか遅刻は免れたかもしれないのに。
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