第一章──果汁20%

6/24
前へ
/394ページ
次へ
「お? そこにいるのは我がクラスの檸檬君と桃君、もとい果実組じゃないか」 「なんですかその奇面組チックな呼び方は!」 「なっ、まだ柑橘類のほうがいいと思うだろ?」 「あ、ほんとだ……って、それとこれとは話が別だ!」 担任は、相変わらずプリント類を落とさないようにバランスをとりながら、ふらふらと近づいてくる。 「もう始業のチャイムは鳴った筈なのだが……はてさて、なぜ諸君らはまだ廊下に存在しているのだろうか」 「それは先生簡単だ! 遅刻したんでムグォッ!」 「お前今何言おうとした!? ほら、先生より先に教室に入ればセーフなんだ、行くぞ!」 俺は、なんとか間一髪で桃の口を塞ぎ、そして教室に向かって走り出した。 と、同時に、担任も物凄い迫力で走ってくる。 「お前ら、遅刻を無かった事にするつもりか! そうはいくか……この桜門虎次郎の眼が濁らぬ内は、そんな不正見逃すわけにはいかん!」 怖いって、名前とかそういうの含めて色々怖いって! 俺と桃から教室までと、担任から教室までの距離はほぼ等しい。 となると、この勝負を決めるのは純粋な走力だろう。 あんな中年に、現役高校生が負けてたまるかぁぁっ! 走る、走る、ただ遅刻という恐怖から逃れるためだけに。 やはり、俺と桃の方が少し速い。 「ぬおぉぉぉぉぉっ!!」 「先生頑張れ!」 「お前は誰の応援をしてるんだ!」 ちょっと待て……加速してないか!? 嘘だろ、プリントとノートを抱えたままあの速さ!? 勝てない……! 「ふはははっ! 残念だったな果実組! この勝負、我の勝ち──はうあっ」 まるで悪魔のように笑った担任は、直後、その見た目からは到底想像もつかない天使のような可愛い声を上げて、ずっこけた。 廊下に舞い落ちる大量のプリント、ぶちまけられるノート。 「ドジッ子タイムきた!! 今の内に……!」 すまない、プリント、ノート……お前達の犠牲は無駄にはしないぞ! この期を逃すわけにはいかない。 俺と桃は、辿り着いた教室の扉を開け──ようとしたのだが、突如教室の扉が開き、一人の女子生徒が立ち塞がった。 「ちょっとどいてくれ……早くしないと担任が起き上がっちまう……! って、あれ……君、誰?」 目の前に立ち塞がった女子生徒に、俺は見覚えが無かった。 桃も不思議そうな顔で女子生徒を見つめている。 おかしいな……ここ、俺達の教室だろ?
/394ページ

最初のコメントを投稿しよう!

291人が本棚に入れています
本棚に追加