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なんで知らない生徒が──。
「遅刻……ダメ……絶対」
「……はい?」
まるで何かのポスターに書いてある標語のような事を言ったその女子生徒は、俺の腕にゆっくりと手を伸ばした。
刹那、体が重力から解放されたような感覚。
視界がぐるりと回り、背中に強い衝撃を感じた。
痛い……え、何これ、うわ、脳震盪。
気付くと、俺は廊下に仰向けで倒れていた。
背中が凄く痛い。
「うわー、すっげぇ!! 今の、一本背負い!? 初めて見た!」
何やら桃が女子生徒の事を尊敬の眼差しで見ている。
俺はどうやら女子生徒に一本背負いをくらったらしい。
まさか、こんな華奢な体の女の子から初一本背負いをされるとは思ってもみなかった。
天罰だろうか、遅刻から逃れようとした──。
「痛たた……果実組、許さん……! お前ら二人とも遅刻だ!」
「先生も遅刻はダメ、絶対……」
「はうあっ」
プリントやノートをかき集めた担任が、俺達のところに駆け寄って来たが、俺同様に女子生徒に流れるような動きで、一本背負いをきめられた。
廊下に響く担任のドジっ子特有の呻き声。
以前は、
「なんだよ、はうあって! どう考えてもおかしいだろそれ、あんた男っていうか漢って言った方がしっくりくるくらいの雰囲気だぜ!? 似合わねー!」
と、思いっきりつっこんでいたのだが、もう慣れた。
同じクラスの生徒達も同様だ。
って、今は担任のドジっ子を解説している場合じゃなかった!
今重要なのは、目の前の謎の女子生徒だろ。
初対面でいきなり一本背負いって、どんな劇的な出会いだよ!
「うおぉぉ! 凄い! ごつい男まで投げ飛ばすなんて……ぜひ俺を弟子にしてくれ! いや、してください!」
桃は、男二人を投げ飛ばしたにも関わらず息一つきらしていない女子生徒を見て、目を輝かせて弟子入り志願している。
お前は、投げ飛ばされた友達の心配は一切しないんだな!
対する女子生徒は、長く伸びた前髪で、目を完全に隠してしまい、少し照れ気味に応えた。
「考えてもいい……」
「そこ考えるんだ! って、なんでちょっと恥じらいながらも普通に応えてんだよ! それより何より、君誰!?」
俺の質問に、女子生徒は倒れている俺をゆっくりと見下ろし、そして抑揚の無い声でこう言った。
「私は……この学校に今日から転校してきた、林檎。 酒塚林檎といいます……よろしく、古津檸檬君……」
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