プロローグ

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 窓の外には無数の光が瞬いている。  月並みな表現で言えば、宝石箱をひっくり返したというのがしっくりくる。  その様子にしばし視線を向けてから、彼女は深々とため息をつき頭を揺らした。  彼女が住むテラの衛星ルナにそびえ立つ高層マンションの一室は、監視下に置かれていると言って良かった。  外出時には尾行がつき、送られてくる手紙の類いにはチェックが入る。  そんな処遇に置かれるきっかけは、彼女がテラにいたころ関わってしまった『惑連の汚点』である。  神の領域を犯しかねない最先端の研究。  今や公然の秘密となっている、惑連宇宙軍特務を形成する人工生命体、通称『dolls』。その初期開発メンバーに、彼女は名を連ねていた。  意見の相違から辞表を叩きつけ逃げるように惑連を後にした彼女は、常にその監視下にあった。  それはテラを離れ、生まれ故郷であるルナに戻っても変わることはなかった。  機密に触れてしまった彼女から、それが漏れるのを警戒してである。  数年前始めた診療所勤めを辞め、惑連に戻ってしまえば楽になるのだろうか?  だが、彼女はその考えを頭から振り落とした。  同時に悪魔に取り憑かれてしまったような笑みを浮かべるかつての同僚が、脳裏に浮かんで消える。
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