哀れと痛みと残酷と

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「敗残者との距離は」 毎晩のように眠れなくて 睡眠薬を飲んで 眠りについた僕は 何時の間にか 暗やみのなか 遥か高くそびえる崖の前に 立ち尽くしていた 心の壁に刻まれた 敗残者の落書き 見えない死体に怯えて 僕はその場から逃げ出そうとするけれど 離れれば離れるほど 空気を吸うことができなくなって 僕は息苦しくなっていく たまらなくなって 思わず立ち止まってしまった僕 汗だくになりながら ふと あの敗残兵の遺言は 何と書いてあったのかと 思い返してみたが どうしても思い出せなかった あれほど恐怖を感じた落書き なのに僕はその一語さえ 思い出せずにいる どうしても気になって 足はそちらにむこうとするが 前に進もうとはしてくれない どうしていいかわからずに 耳をふさいで叫びだした それにしても息苦しい ただ少なくとも こるは生温い快感だ 皮肉なことに それだけは確かなのだ
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