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空の青さが雲の高さを低く感じさせる…そんな日だった。
やわらかな春風は、桜の花弁を奪うと西洋庭園風の墓地へと放った。
その一枚が、境一郎の頬をかすめる。
石碑に記されている名前を目の前にして、境一郎の心は再び痛みに震えた。
心の中にある言葉に出来ない悲しみが、揺るやかな波の流れの様に全身をじわじわと巡る。
何度も何度も味わった悲しみだ。それを改めて実感させられる。
最愛の人を失って早五年。
その死を…悲しみを受け止める為に今日この場所へ来たが、やはり未練を断ち切る事は出来ない。
まだ、こんなにも君を思う自分がいた。
「ごめん…また…来るよ」
風にかき消される様な小さな声で告げ、その場から逃げる様に去った。
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