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宴も酣となり思い思い酒にふける者、歌い始める者、また、芹沢に酌をした返杯で酔い潰されて横になっている者など様々で、平山、平間、野口などは早い内から既に目が開いているのかも判らない。
対面の永倉新八の肩越しに芹沢を見ると、今は近藤勇と何やら語り合っていて、二人は傍目には大いに愉快そうに見える。
意外と近藤さんも役者だなあ、とその様子を末席から眺め、肴にしていた。
頃合いを見て向かいの永倉に。
「しんぱっつぁん、俺はどうやら酔ってしまったようだ。先に前川邸に帰って寝ることにする」
「おいおい、そりゃいけねぇな、外はこの雨だ。そう長くかからない内にお開きになるさ。それで皆と戻れば良い」
「大丈夫、心配いらねぇ。それに――」
――まだ終わらんよ。
と言いかけたのを止めて、立ち上がった。
近藤、土方、沖田、井上、山南、原田。その誰とも視線が交わることはなかった。
ただ、上座にいた鴨の両目が微笑を携え、藤堂を射た。
酔っていないのではないか。
知っているのではないか。
表情を平静に保つのがやっとのことであった。どうにか会釈をし、背を向け松の間を出た。
ひやりと嫌な汗が、右の脇腹を一筋、通り過ぎた。
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