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この日、雨は止まなかった。
なお一層雨足は強まり、より色濃く闇を湿らせている。
泥酔した芹沢達は土方の手配した籠に乗り、手筈通り角屋から八木邸に戻った。その様子を試衛館一派が前川邸から覗き見ていた。
「野口が居ないようだが」
「あんな三品いつでも消せる。今は鴨だ」
山南の独り言のような問い掛けに、土方の苛立ちが声に乗る。
「今回は殿内や新見とは違う」
寝静まるのを待つ間、お梅の香艶な声が雨を縫って村に響いた。
「平助はお年頃だからなあ」
暇を持て余した沖田が前置きもなく言い出して、「何をこんな時に」あなたもでしょうが、と言い返そうとした時、どうやら果てたらしい。一同に緊張が戻り、息を殺して待ち続けた。
半刻後、六匹は黒い頭巾を被り、全身を黒尽くめという異様な出で立ちで土砂降りの路地に現れた。
既に刀身は鞘から出でて抜身の状態で、柄と両の手は下緒で頑丈に縛られている。
尋常ではない。
切先からひたひたと流れ落ちる雨は、牙を剥いた狼が獲物を前に垂らすそれに似ている。
土方が刀を振り下ろした。
壬生狼の群れは、泥を跳ねて一斉に駆けた。
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