芹沢鴨

6/8
39人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
暗がりの中、壬生郷士八木源之丞宅の庭陰に土方、沖田、井上。母屋の玄関口では山南と藤堂が闇に紛れ、残る原田は槍を持って壬生寺の境内から裏手に陣取り、逃走者が出た場合の備えとした。 藤堂は玄関の式台に身を潜め、襲撃前の取り決めを思い出していた。 第一にして最大の目的は芹沢鴨の暗殺。 次に、一人も漏らさず皆殺しにすること。 また、最初の斬り込みは土方達が行い、それを合図に玄関口から藤堂たちが挟撃する。 以後、各人適宜行動し撤収する。 解りやすくて良い。作戦は明快さを尊ぶ。死に物狂いの中では、緻密に入り組んだ命令など意味を為さない。 (だが、これは武士の…) 頭に浮かび始めた時、雷に胆が悶え千切れるような叫び声が耳に響いた――と、同時に襖を蹴倒して入り、そのまま首を一つ、胴から落とした。血煙が舞った。 声を殺し怯えている二つの人影。桔梗屋の吉栄と輪違屋の糸里であることは先に聞き知っていた。 (女まで斬れるかよ) 藤堂は一瞥し、そままの勢いで先に駆け、それよりも奥の間で芹沢と対峙する土方達を見つけて、加勢することを急いだ。 と、その時、足下にいた一人を反射的に斬った。薄白い首の皮一枚だけが胴体と頭を繋げている。 一瞬の間を置いたあと、そこから一気に血が噴き出し長襦袢を染め上げ、さらに天井にまで飛沫を浴びせたそれは、部屋一面が血の海と化した畳の上に、ぴちゃぴちゃと落ちては跳ねた。 (…お梅さん、だったのか) 声にはならなかった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!