0人が本棚に入れています
本棚に追加
私が、この旅を始めようと思ったのは五年前に遡る。暑い八月の終わりに、私が師と仰ぐ先輩の病気の知らせに始まる。
仕事に情熱を燃やし、人の何倍も努力をし妻、母でありながらその仕事振りは、さながらキャリアウーマンと呼ぶのに相応しい。
私達、部下にも厳しい指示が飛ぶ。「プロなんだからね。甘えちゃいけないよ。」容赦なく次から次に言葉が飛んでくる。
しかし疑問をぶつけると、的確な答が返ってきて私は、頼もしいそんな彼女が好きで多大な信頼を寄せていた。
そんな彼女を襲った病に私は言葉を失った。「胃癌」彼女に告げられた病名だった。既に末期で手術もできない、手遅れだった。
病気がわかってからも彼女は、職場に復帰できる事を信じて自分のデスク周りを整理整頓をし仕事を引き継ぎ入院をしたのだった。
九月に入り、私は彼女を見舞った。きれいな花を両手に病室を覗くと、そこには元気な頃には想像を超える姿があった。
腕には抗がん剤を投与する管。枕元には抜け落ちた無数の髪の毛。顔色は黒ずみ、それを見て私はかける言葉を失ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!