その一

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「こんにちは」 やっと声を出すと、『来てくれたの?』と弱々しい言葉で私を迎え入れてくれた。「花を持ってきたよ。何処に飾ろうか?」 『そんなものを持ってきて。今の私は花の世話なんかできないよ』」 いつもの彼女の口調に、少しホッとしたのだった。 『私、胃癌なんよ。手術ができないらしい。困ったもんだ。』」 『あなたも気をつけないと駄目よ』 『早期発見に限るよ』 「うん、そうだね」 「そういう先輩は仕事ばっかりして、体の事はほったらかしだったじゃない」 『そうなんよ。旦那が癌で、その怖さは十分わかっているはずなのにね』 彼女の手をさすりながら、会話は長くは続かない。 「喋らなくていいよ。疲れるから」 『同情されるようになったら、人間もおしまいだね』「………」 『私、もう駄目かもしれない…きっと』 「医学は日々、発達してるから!」 『ううん、もう駄目だよ』「もう、先輩らしくないなぁ。」 『きっと駄目だから、もう来なくていいよ』 「何言ってるの」 「又、来るからね…」 私は、作り笑いばかりをしていたせいか、病院を出ると、どっと疲れが襲ってきた。
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