第一片 誕生

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コツコツコツコツ 自分の靴音が空間に響き、おぞけをさそう。薄暗く、どこまでも伸びる廊下の両脇には格子の付いた鉄扉が無数に続く。腐敗臭と鉄の臭いが野戦病院を連想させるが、格子の向こう側の景色は病院のそれとは全く異なり、むしろ逆であることに長年務めているにもかかわらず気分が悪くなる (早く用事を済まそう) その思いが自然と足を速めるが、独房から聞こえるうめき声に思わず足を止めてしまう。恐る恐る近くの格子を覗けばベットに縛り付けられ、定期的に腕を刃物に刺されている男がいた 「もう止めてくれ…痛い、痛い、痛いよ…ううぁ」 「うっ!」 覗いてしまったことに後悔を覚えながら走ってその場を離れる。込み上げる吐き気に口を手で押さえながら。時折格子から腕を伸ばして罵声を言う者もいたが、気にとめる余裕などなく、ただ走りさる。 「ハアハアハアハア」 息を切らしながら回りを見渡すと扉の姿は消え、少し先に紅い扉が一つあるだけった
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