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拒もうと頭の中では考えていたのだが、私の手はすでにグラスを握り、赤く艶めく液体に魅入られていた。
ゆっくりとグラスの中身を口に流し込むと、抑えていたはずの渇きの欲求をじわじわと身体中、満たしていく。
空になったグラスを見つめながら、虚しいだけの問いが、ふと頭に浮かんだ。
人間らしさとは、何だろうか?
その答えを見つける日は、来ないだろう。
今となっては、私の中に残る人間だった頃の感覚など、薄れてしまっている。
少しずつではあるが、変化に順応してきているのだ。
しかし、どんなに頭の中の甘美な声が、『血が欲しい』と呼び掛けてきても、何度となく、言い知れぬ恐怖に飲み込まれてしまう。
この期に及んで、順応しきってしまうのが、堪らなく怖い。
自分で自分を恐れているのだ。
その結果、自己管理すらままならない私の面倒をフレデリック様が、見てくださっている。
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