昼の月

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一年前、離婚をした。 子供もなく、たいした家財も待たない二人の別れは、巷で語られるようなエネルギーは必要なかった。 馨にとって、離婚に至る理由が憎しみと呼べる感情でなかったからかもしれない。   「俺…お前との子供は要らないんだ」   馨が要に妊娠を告げたときの言葉がきっかけだった。   要はぽつぽつと語り続けた。 「馨のことは大切に思ってる。…二人だけで暮らそうよ」   「俺…正直にいうと馨のこと、たまに恐いことがあるんだ」   馨の頬が軽く痙攣した。 「恐い?」   馨はいぶかしげに要に聞き返した。   「あたしの何が恐いの?」   「お前…たまに記憶が飛ぶことあるだろ? 俺からみてると、全く魂が抜け出してしまったような風に見えるんだ。 あれがな…俺には堪らなく恐いんだ」    
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