冬風鈴

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何時間経ったのだろう? 克己が浅い眠りから覚めると、明け方の薄暗がりの窓辺に、馨がぼんやりと佇んでいるのが見えた。 カーテンを開けて、風鈴を眺めている。   克己は馨が泣いているのに気付いて、寝たふりをした。 馨は何時もああやって、鳴らない風鈴を眺めているのだろうか? 風鈴が鳴ったら、逢えもしない男を思って、息を殺すようにして泣いているのだろうか?   「俺には立ち入れないな…」   そう小さく呟くと、瞼を無理矢理に閉じた。 …今度店で「篠元君」に出くわしたら何も言わず一発殴ってやろう。 そんな事を考えて、克己はまた少し眠ったらしい。   何分くらい眠ったろう? 克己はコーヒーの香りで目が覚めた。   「かっちゃん 起きた? 朝ごはん食べる?」   さっき、窓辺で肩を震わせていた馨は俺の夢だったのか? 克己がそう思うほど、馨はニコニコしていた。   「かおちゃん あの風鈴、俺が捨てたろうか?」   そう克己が問うと、   「ありがとう… でも、あたしはあの風鈴に助けられたから、捨てたくないの かっちゃんには迷惑かけたけど…もう大丈夫だから」   そう答えて、微笑んだ。   「そっか… 俺…かおちゃんの事 どっかで同情してたわ。 可愛そうって でも…」   克己は語尾を濁したままコーヒーを飲んだ。 言いかけた一言は多分馨には伝えないだろう。   「かおちゃん… 俺、かおちゃんのマブダチになれた気がするわ」   馨が嬉しそうに微笑んだ。 それは克己が今まで見た馨の表情の中で、一番優しいな微笑みだった。   「かおちゃんはあの店のママと同じ位、ファンが出来るよ きっと…」    
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