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「暑い…」
気が付くと、その言葉を言わなくなっていた。
枝垂れ柳の枝が、川からの風を受けて揺れている。
知らぬまに、引っ込み思案な秋が訪れていたらしい。
篠元は、営業先の病院からの帰りに 河原に下りてみた。
府立病院の裏手の河原は、恋人達のお決まりスポットで、等間隔に座るカップルの姿は、若い頃のほのかな憧れを思い出させる。
篠元が宇和島からこの町に移り住んだのは、京都の大学に入学した頃だった。
あの頃、この河原に座る自分を想像して、大学への通学にはあまり便利ではないこの河原の近くに下宿したんだっけ…
篠元は、そんな昔の話しに浸るのが好きだった。
彼なりのお金のかからないストレス解消の術なのだ。
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