その男、住所不定無職

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そう言う経緯で今、ここにいる。 「くはぁ~」 口から溜め息と紫煙を盛大に吐く。 もう何かどうでも良いよ…、帰ろ。 煙草の火を消してゴミ箱へ投げ入れた。 「おじさーん!ボールとってー!」 帰ろうとベンチから立ち上がった時に子供たちから声を掛けられた。 お、おじさんって俺のこと? まだ20代前半なんだけどさ…。 足下に転がっているボールを拾う。 この感触、懐かしいな。 昔は良く一人で遅くまで壁に向けてボールを投げて遊んでいたっけ。 だからコントロールには自信がある。 「おじさーん!はやくー!」 「おーう!ちゃんと取れよー!」 俺は思いっきり子供たちの方へ向けてボールを投げた。 しかしボールは子供たちがいる所から、ずれた方向へ飛んで行く。 …俺の腕も鈍ったな。 「おじさんありがとー!」 一人の男の子がそれを拾いに行き、俺に礼を言ってから、また子供たちの輪の中へ戻っていく。 俺は手を振ってそれを見送った。
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