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紅茶を飲んだ後、咲夜さんに連れられて紅魔館の中を歩く。
どうやら館の主人に俺を会わせてくれるらしい。
何となく黙って、咲夜さんの後ろを付いて歩く。
屋敷はどこか外国の有名な美術館や要人宅の様に、壁や天井に高級感のある西洋風の飾付けがされている。
しかし極端に窓が少ない。
しかも窓が在るだろう場所には厚手のカーテンが掛かっていて、日光を完全に閉じていた。
照度は壁に等間隔に掛かっている燭台で充分だったが、取り換える時に不便じゃないのだろうか?
少し興味が湧き、俺は思い切って咲夜さんに聞いてみた。
「あの…、蝋燭って雰囲気出ますけど、取り替えとか不便じゃないですか?」
俺の質問に咲夜さんはわざわざ立ち止まって答えてくれた。
「窓を開けられれば気持ち良いんでしょうけど、お嬢様の体が日光に弱いのよ。
それに蝋燭の取り換えは、稀よ。
私がこの屋敷に居る限り半永久的に燃えている、から」
「咲夜さんが居る限り?」
俺は質問の答えの意味が分からなかったので、咲夜さんに聞き返した。
「私って少し時間を操れるみたいでね、蝋燭の燃える時間を遅くしているのよ」
「時間を操れるって…、それなら完全に燃えてる時に、時間を止めれば楽で良いんじゃないですか?」
咲夜さんが冗談を言っているのだと思い、俺は話を合わせた。
「うーん、それでは風情がないんじゃないかしら?
モノの時間を完全に止めると言う事は、そのモノを完全に殺す事と同意義だと私は思うの。
実際に、そこに存在していても、動きもしないで、唯、存在するだけなのよ?
それでは死んでいる事と大差ない。
そう言う『死』のばら撒きは、品がなくて、無粋ね。
更に、完全に蝋燭の時を停止してしまうと、私の大事な、屋敷のお仕事が一つ減って暇なの。
これはもう、商売上がったり、大問題よ。
やはり何事も加減が大事なのよ?」
「はあ、そんなもんですか」
「そんなもんよ」
時の在り方について、握り拳で熱く語る咲夜さんに、内心、少し危ない方では?と言う危惧を抱きながら、俺は相槌を打った。
「それにしても、私の能力を聞いて引かないなんて、あなたって、中々、変わった人ね。
…あー、長話が過ぎたわ。
少し先を急ごうかしら?」
俺は再び歩き出した咲夜さんの後を慌てて追った。
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