登場

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そんなことを考えていると、彼女の長い脚がこれまた上等そうな大きな扉の前で止まった。       なるほど、ここが社長室というわけだ。       彼女がリズミカルにその扉をノックし、「北川美波を連れて参りました」と抑揚のない声でそう言った。   すると呼応するように「入れ」という低い声がし、彼女は重そうな扉を開くと、高校受験の面接用に見せられたビデオのなかの模範生のような斜め45度のお辞儀を決め、その一部の隙もない彼女の姿に目を奪われる。   が、社長はそんな美しい彼女に労いの言葉もなく無愛想に「鈴木はもう下がれ」と言う。       この美しいひとは鈴木という名前なのかぁ…。 いかにも秘書というかんじの知的さと美しさを兼ね備えた容姿と完璧なスタイルなのに、名前は案外普通なんだなぁ。       と、全国の鈴木さんに失礼なことを考えていると中に入るように促された。
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