1人が本棚に入れています
本棚に追加
そのままじっとしていると、逃げるように去っていく足音が聞こえる。
その後ゆっくりともうひとつの足音も消えていった。
緊張が切れた私は、自販機にもたれ掛かったまま、ずるずると腰を落とす。
深く溜め息を吐き、強く握り締めていた教科書を地面へ放した。
「おい、もう授業始まるぞ。サボる気かテメエ」
「げ、仲堀」
「仲堀先生、だろが」
ぼんやりしていた私に話しかけてきたのは、担任の仲堀大和(先生)。
理科の教師が故に白衣を身に付けているが、それが無ければ容姿や立ち振舞いから教員だと気付くことは難しいだろう。
眼鏡を掛けていても頭が良さそうに見えないのが不思議だ。
ベビースモーカーな彼は、校内禁煙の規則にうんざりしつつ、他の教師の目を盗んでは喫煙しているのだ。
今もそれに変わることなく、人通りの少ないこの自販機周辺で煙草を吸いに来たのだろう。
生徒の目の前だというのに、胸元から煙草を取り出し、火を点けた。
「先生、これから授業だよ」
「うるせぇ、朝吸えてねえんだ黙ってろ。てゆか、さっさと理科室行きやがれ」
「みっこ待ってるんだもん」
私が此処に居る原因である彼女の名前を出すと、仲堀は軽く顔をしかめた。
最初のコメントを投稿しよう!