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「だからあの国が一番最悪だっての!食い物は汚いわ差別激しいわ!ホンット!」
「それ言うなら俺が行った国もだ、普通の道端で腐った肉やら骨やら散らばってるし‥何の死骸なのか分かったもんじゃねーよ」
「私の行った所は川で水浴びやら洗濯してんのよ!?信じられる!?」
「それって普通じゃねーのか?」
「その川に水死体が浮かんでても!?」
「‥ゥワァ~ォ‥」
酒を飲み、愚痴を言い、この世界のありのままを語り、ネタにしては笑う人々。
……ここは深夜遅くのギルド仲介所。木造カウンターの奥で若い店員がグラスを磨く。もう遅い時間だが‥まだ活気が溢れている‥注文はもう殆ど無い。
店員はアクビを一つ……そろそろ客が帰り始め少なくなる頃かな、と、思い始めた時……歌声が聞こえた‥
……聞いたことがある‥確か賛美歌。ジョン=ニュートン作詞……いい声だ‥低音‥だがとても低いその声は……求める者にしか聞こえない‥そんな歌声。
現に店にいる屈強そうな客逹には聞こえている気配は無い……いや、何人かは気付いたらしいが‥まるで見ないテレビの音を聞くかのように聞き流している‥
ワイングラスをカウンターの前で磨きながらしばらく聞き入る店員だった。
『神の恵みこそが私の恐れる心を諭し・その恐れから心を解き放ち給う・信じる事を始めた時の神の恵みのなんと尊いことか‥』
……終わった?‥店員はフと気になり、声の主を探した…………いた。店の端、誰も周りにいない為すぐ分かった。
深く椅子に座って足を組み、煙草の煙りを吐いている……真っ黒なキャップを顔を隠すように深く被り、耳にはピアスを数個、椅子の背もたれに掛けるジャケットの背中にはボロボロになった三日月が刺繍されていた……テーブルの上には灰皿と空になったロックグラスが並んでいる。
店員は見慣れた姿に微笑みを浮かべ、磨いていたグラスをカウンターに置き、先程まで歌っていた青年に近づいて行き‥目の前に立った‥
「いらっしゃいませお客様、かくれんぼがお上手ですね?何からお逃げに?」
「ハッ‥酒に逃げてるよ」
「調子はどうですか?」
「最高え」
「では‥久しぶりにキツイのはどうでしょう?」
「……オーケー‥爺さんに作らせてくれ」
「はい、分かりました」
「あと、テキーラ宜しく」
「どうせならロンリコでどうです?」
「ヒャハ!‥んが最高え‥」
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