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───
「えっと……」
言葉に詰まる。状況を理解できない。
今までの俺のターゲットからことごとく外れた少女を前に、俺はどうすればいいのか分からなく、
「お前、名前は?」
「え、あ……伊豆玖迅だけど」
その、唐突な少女の問いに、思わず素直に返してしまった。
「ジンか。良い名前だのう」
少女はそういうと、ニコリと微笑んで俺のほうに歩み寄る。
鉄枷にぶら下がる鎖が、ジャラリと音を立てた。
「わしの名前は螢惑星(ひなつぼし)めぐる。よろしくの。ジン」
「あ、ああ……」
差し出された手を、思わず握り返す。その手は、子供特有の暖かさに満ちていた。……が、だ。
「ちょっとまて、よろしくってどういうことだ」
俺はこいつを殺しに来た。
でも、こいつがそれを知っているはずはない。
そもそも、殺されるのに『よろしく』は無いだろう。
そんな俺の疑問に、少女……めぐるは首を傾げる。
「わしをここから連れ出しに来てくれたんじゃないのか?」
……いや、意味わかんねぇし。
「連れ出しにって……お前、監禁されてるみたいな……」
「おう。されとるのう。かんきんってやつを」
事も無げに語るめぐる。
俺は再び、彼女の姿を。服装を見直す。
ぶかぶかの黒いマントに……鉄枷。
動物に。それも、猛獣につけるかのような鉄の首輪が、少女にはつけられていた。
「……どう、して」
……どうして。こんな少女に、こんなものが付けられているのか。
そりゃあ、俺だって半端ではあるが裏側の人間だ。これと同じようなものは見たことがある。
人身売買……特に少年少女、このくらいの年齢の子供は、非常に不快なことに、よく売れる。
下水みたいな匂いが漂う部屋に、手錠で繋げられて無造作に詰め込まれた子供たち。
そういう光景を、全く見なかったわけじゃない。
だが……。それに比べても、めぐるは異常だった。
鎖で行動が制限されているとはいえ、ホテルの最上階のスイートルーム。
見たところ虐待等を受けていた様子でもないし。だが、それにしては、鉄の首輪は行きすぎだ。
その扱いはまるで、高級な猛獣を、ペットにしているかのような……。
「……家族なんかは?」
「家族?なんじゃそりゃ。生まれてこの方、そんなものに覚えは無いわ」
ふんっと鼻をならす、めぐる。
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