『一撃必殺』

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「ずっと待っていたんじゃ。わしを連れ出してくれる人を」 憂いを帯びた表情は、見た目どおりの年齢とは思えないほど大人びていて。 「繋がれたままは。誰かの思い通りになったままは。嫌だからのう」 そして、その言葉は、俺と同じで。 抗えない何かへの。抗えない誰かへの。必死の抵抗のようで。 「……抵抗。か」 笑わせる。俺がこの少女のように、心から抵抗したことが、あったか? どうせ無理だなんて諦めて、アイツの思い通りに扱われていた、だけじゃねぇか。 「…………」 俺は携帯を取り出すと、着信履歴からテンクの番号を出す。 『……終わったか?』 かけて直ぐに、無愛想な男の声。俺はそれに。 「いや。逃げられた」 嘘を付いた。 『ほう……』 「ああ。びっくりだよ。まさかあんな護衛がいるなんてな。今から追跡する」 『いや。お前はもう良い。こちらから他の刺客をだす……と言ったところで。お前は止めないだろうが』 「分かってるじゃないか。流石は俺の育ての親」 『ああ。分かるさ。お前のことならな』 ……ああ。こいつ、気付いてやがる。 気付いて……楽しんでやがる。 「……じゃあな。その刺客さんとやらにも、よろしく言っといてくれ」 『分かった。では、気を付けるといい』 その言葉を最後に、テンクは電話を切った。 「気を付けて……か。今まで一度も、そんなこと言ったこと無いくせに」 皮肉気に笑って、電話を仕舞う。 「どうしたのじゃ?」 めぐるが首を傾げる。 俺は、なんでもないと首を振って。 「……じゃあ、とりあえず……家に帰るか」 少女に、手を差し出した。 あの電話は、裏切りの宣告。 そして、俺とあいつの、初めての勝負の時間。 俺は、あいつに挑戦し。あいつは、俺の挑戦を受けたのだった。 ……それじゃあいっちょ、裏切りの時間と行きますか。
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