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「いや、は?じゃなくてね。今の、こんな状態を続けるよりかは、そっちのほうが良いんじゃないかと思ったの」
「……そりゃまた、どういう意味で」
ルミは「どういう意味でしょうね」とはぐらかす。
「それでね、めぐるちゃん。だからジンと一緒に、私のところ、来ない?」
「……」
めぐるは黙って、俺のほうを見た。
俺は肩を竦めて、それに返す。
好きに決めれば良い。
……いや、もう答えは、決まっている。
俺が欲したもの。めぐるが欲したもの。
その二つは、同じもので。
多分、それは、その差し出された、ルミの右手なんだろうと。
俺は知ってるから、めぐるの答えは俺と同じで。
「……わしは──」
だから、その答えを聞く前に──
「ちょい待て。もう時間だ。めぐる」
俺が、それを遮った。
「時間?……っ!」
へぇ、結構良い危機感知、持ってるじゃないか。
俺は感心しながらも立ち上がり、めぐるを傍に寄せる。
「ちょっと、まだ話は終わってないわよ!」
ルミが怒ったように声を上げるが、そんなことを気にしている場合じゃない。
……遂に来たのだ。
今日の客が。
「あのな、ルミ」
めぐるが俺の横から、ルミに振り返る。
「ありがとう」
そして、微笑み。
初めて見た、めぐるの子供らしい、微笑み。
「ルミ、俺たちが出て5分経ったら出ろ。んで、そのまま家帰れ。その間、音立てるなよ」
「ちょっと、どういうことよジン……!説明しなさいよ!」
困惑したルミの言葉。だが、説明しろと言われても、説明できるものでは無い。
説明、したくない。
俺は、せめてルミの中でだけは、冴えない無職の、バカで居たいから。
「……ああ言ってくれて、嬉しかった」
ルミが居てくれて、良かった。
「アンタの、弟で良かった」
俺なんかを、家族と思ってくれて、良かった。
だから……。
「答えは──帰ってから伝えるよ」
自然と。顔が綻んだ。
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