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眼っていうのは、人間にとっては結構大切な器官だと思う。
人は、情報の九割を視覚に頼ってるとか、そんな難しい話ではなくて……。
ほら、よく言うだろ。『目は口ほどにものを言う』って。
だから、目を合わせれば。
怒っていることも、分かるし。
悲しんでいることも、伝わるし。
……そして。
目で、人を殺す事だって、可能だ。
「……」
鏡に映る自分の瞳を見つめる。
光の加減で色を変える。虹色に近い、奇妙な虹彩。
人を殺す──瞳。
「……くだらねぇ」
何を、感傷に浸ってるんだか。
下らない。
そういうのは、本当に下らない。
顔を洗う。
急がないと。今日はルミの奴が来る日だし。
ルミの機嫌を損ねるのはヤバイ。
収入の安定しない無職の兄ちゃんは、優しいお姉さんの施しが無いと生きていけないのだ。ヒモではない。
髪の毛も適当にセットして。服も、心無ししっかりして。
準備万全……といった所で、インターホンが鳴る。
「はいよー」
返事をしながら扉に向かう。つうか早いな。
「おーい。あたし様が来てやったぞー。開けろー。金が要らんのかー」
「必要だ……っていうか、インターホン連打すんなっ!」
ガキかてめぇは。
「少なくともお前よりは大人だわな。一応社会人ですからー。あ・た・し」
いや、本当。
こんな奴がしっかり生きていける辺り、社会ってのは間違っている気がする。こんな奴を養うより、今まさに崖っぷちな奴を支援とかしたほうが良いんじゃないか。例えば俺とか。
「あーけーろー」
「だーかーらっ。連打すんなっつってんだろっ!壊れたら弁償しろよアホ!!」
言いながら扉を開ける。
そこに、随分ラフな格好をした、髪の長いお姉さんが立っていた。
「おー、ジン。まだ生きてたかー」
「一応な……」
意地悪い笑みを浮かべるその女に、俺は頭を押さえながらため息を吐く。
池波 屡魅(イケナミルミ)。
こんな、常時酔っ払いみたいな姉ちゃんが、俺の首の片方を握っていたりするから、嫌な話だ。
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