『一撃必殺』

2/9
前へ
/50ページ
次へ
眼っていうのは、人間にとっては結構大切な器官だと思う。 人は、情報の九割を視覚に頼ってるとか、そんな難しい話ではなくて……。 ほら、よく言うだろ。『目は口ほどにものを言う』って。 だから、目を合わせれば。 怒っていることも、分かるし。 悲しんでいることも、伝わるし。 ……そして。 目で、人を殺す事だって、可能だ。 「……」 鏡に映る自分の瞳を見つめる。 光の加減で色を変える。虹色に近い、奇妙な虹彩。 人を殺す──瞳。 「……くだらねぇ」 何を、感傷に浸ってるんだか。 下らない。 そういうのは、本当に下らない。 顔を洗う。 急がないと。今日はルミの奴が来る日だし。 ルミの機嫌を損ねるのはヤバイ。 収入の安定しない無職の兄ちゃんは、優しいお姉さんの施しが無いと生きていけないのだ。ヒモではない。 髪の毛も適当にセットして。服も、心無ししっかりして。 準備万全……といった所で、インターホンが鳴る。 「はいよー」 返事をしながら扉に向かう。つうか早いな。 「おーい。あたし様が来てやったぞー。開けろー。金が要らんのかー」 「必要だ……っていうか、インターホン連打すんなっ!」 ガキかてめぇは。 「少なくともお前よりは大人だわな。一応社会人ですからー。あ・た・し」 いや、本当。 こんな奴がしっかり生きていける辺り、社会ってのは間違っている気がする。こんな奴を養うより、今まさに崖っぷちな奴を支援とかしたほうが良いんじゃないか。例えば俺とか。 「あーけーろー」 「だーかーらっ。連打すんなっつってんだろっ!壊れたら弁償しろよアホ!!」 言いながら扉を開ける。 そこに、随分ラフな格好をした、髪の長いお姉さんが立っていた。 「おー、ジン。まだ生きてたかー」 「一応な……」 意地悪い笑みを浮かべるその女に、俺は頭を押さえながらため息を吐く。 池波 屡魅(イケナミルミ)。 こんな、常時酔っ払いみたいな姉ちゃんが、俺の首の片方を握っていたりするから、嫌な話だ。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加