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「あのね、あたしはこれでも真面目に忠告してるのよ。アンタもね、いい加減に……」
ルミの言葉を遮るように、俺の携帯が音を鳴らした。
画面を見る。
今、一番関わりたくない奴の名前が表示される。
「……悪い。少し外に出ていいか」
「……別にいいわよ。あたしもう帰るし。どうせ今日は、それ渡しに来ただけだし」
話の腰を折られ、不機嫌になったルミは、鞄を乱暴に抱えて部屋を出て行った。
「……はぁ」
その姿にため息を付きながら、俺は携帯の着信ボタンを押す。
「……もしもし」
「仕事だ」
ものすごく億劫な気分でそれに出れば。挨拶も何もかもすっ飛ばして、端的で率直な内容だけの言葉。
「……テンク。また急だな」
「急じゃない用件が、今までにあったか?……ふん。確かに今回の用件は性急だがな」
「へえ……」
……これが、俺が真っ当な職にありつけない理由。
仕事につけない理由は、何時『仕事』が入ってくるか分からないから。
収入も安定しない。生活リズムも安定しない。
そんな仕事。
「センターホテル。最上階のスイートルーム。護衛は五人。標的は……見れば分かる。日時は今日の夜。10時で良いだろう。頼んだぞ。『アポトーシス』」
「……了解」
俺の返答と共に、切れる電話。
俺の了承なんて聞いちゃいねぇ。そんなもん聞くまでもなく、俺が了承すると分かっているように。
「……チッ」
確かに。どう転がろうと、俺はテンクの言葉を聞くしかないのだが。
それでも、全てがアイツの思い通りというのは、癪に障る。
「……くだらねぇ」
本当に、くだらねぇ。
夢を見るなよ。馬鹿野郎。
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