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「──はあ」
引き金が。引かれることは、無かった。
「……あっぶね。久しぶりに命の危機を感じたぞ、今の」
本当に紙一重だった。
というよりも、アイツの奇襲は成功していたのだ。
……相手が、真っ当な人間だったなら。
────『異能』
それは、少数の人間が持つ、人間が持たない筈の人間の力。
例えば、触れずに物を曲げるとか、物を浮かすとか、透視とか、予知能力とか。
俗に言う超能力も、その分類。他には、悪魔憑きとか。
およそ異能者には、常識が通用しない。真っ当じゃない。
そして、俺。
俺も異能者である。
細かいことを省くと、俺の眼は……『視るだけで人を殺せる眼』だと思ってくれれば良い。
明暗を分けたのは、引き金を引かなければならなかったあいつと、『確認するだけ』だった俺の、単純な性能差だった。
「いや、マジでビックリだわ。君には敢闘賞を与えよう」
要らないって?まあ上げる気はそもそも無いけど。
ただ、彼は俺の役にも立ってくれたので、やっぱり何か労ってやりたい気分だった。金さえあれば。
「要するに、そこの部屋なんだな。今日の獲物さんは」
何しろ、ただっ広い部屋が十部屋もある。それを全部探していくのは骨が折れるが……最後の護衛が飛び出してきた部屋。果たしてそこ以外に、隠れ場所があるだろうか?
「ちはー」
ノックはしない。つうか出来ない。あのオッサンが蹴り飛ばした所為だ。
部屋の電気が付いていなかったので、電気を付けた。
「さて、どこにいるやら……」
どうせ、クローゼットやトイレに隠れているんだろうなと、俺が部屋に足を踏み入れたとき──
「……だれじゃ?見慣れん顔だのう」
そこに、一人の少女──いや、少女というにも尚幼い、一人の女の子が、立っていた。
背は130程度。
ぼさぼさの、床に着く長さの紅い髪と、同じ色の瞳。
全身を覆う黒いローブと、首に巻かれた、鎖の付いた鉄枷。
……なんだこいつ。
まさか、これが……。
こんなのが……俺の今日のターゲット?
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