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姫の部屋のドアの閉まった音が小さく聞こえた。
「……姉ちゃん、行かないの?」
ドアノブを握りしめたまま硬直した姉さんに雪人が問う。
「そうね、早く行きましょう。姫は兄さんに任せとけばいいし」
歯ぎしりが鳴り、声は震えていた。
「無理してるんじゃ」
「ううん、無理なんかしてないよ。ただ…昔を思いだしただけ」
昔というのは姫がくる前のことか、はたまた姫が来たあの日かは僕には分からない。
雪人が僕の耳に顔を近づけ
「今日は早めに帰ってこいよ」
といつも1番帰ってくるのが遅いのに1番早く帰ってくる僕に小声で言った。
僕は「分かってるよ」と返事をして、姉さんの手をそっと離しドアを少し開く。
暑いもわっとした空気が体にぶつかった。
「姉さん、雪人。準備はいいかい?」
目を虚ろにしていた姉さんと雪人は何かを思いつめたような顔で頷いた。
僕はそれに呼応するかのように頷き扉を開いた。
今日もまた表情という名の仮面をかぶって僕らは登校する。
人を監禁していることがバレないように、犯罪者ということを隠すために……。
「いってきます」
誰に言ったかも分からない独り言をそっと呟いた。
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