「彩雲」

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「け~んしんっ。あのね、起きてる?」  朝早くから、剣心の部屋の前に響く甘い声。  その声に支度の手を止める。 「薫殿?何の用でござる」  襖の向こうに居る声の正体に問いかけた。 「うん。ちょっといいかな」  こういう声色の時は決して簡単な内容ではないことは経験で判る。が、断った後の方が恐いので、仕方なく襖を開けた。 「おはようでござる。して、何を…?」 「うん。ちょっと買い物にね…」  ああ。いつもの大量にまとめ買いか。荷物持ちはいつも拙者でござる。と、剣心がぶつぶつと独り言を呟く。  だが、今日の雰囲気はいつもと違った。  なにやら恥ずかしそうに着物の裾を摘まんでは引っ張り、挙動不振であった。 「……剣心。私ね、欲しい物があるの。だから一緒に行って?」 「ん?何を買うんで……ああ、資金が足りないんでござるか。それならそうと言って欲しいでござるよ。…で幾ら?」  そう言うと、途端に薫の表情が変わった。 「剣心のばかぁ~!鈍感っ」  そう捨て台詞を残し走り去っていった。  訳の判らない剣心だったが、隅で一部始終を見ていた左之助が口を挟んできた。 「はんっ。…確かに剣心。お前が悪い。乙女心が判んねぇな」  剣心は左之助を睨みつけた。 「いつの間に!それに一体何でござるか。拙者が何を!」 「だ~か~ら!嬢ちゃんの指!気付かねぇの?」  いきなり訳の判らない展開に目を丸くする剣心。  指と言われても……。 「あ!確か今日は…っ!」  後ろに掲げてあった暦をめくる。そこには薫の字で覚え書きが。  慌てて薫の後を追う。 「薫殿。すまないでござった!…拙者、まだ先の事と思いなんの準備も…。ああ、いや、忘れていた訳ではないでござるが…。色々と今日は…そのぉ…」  しどろもどろな剣心の態度に思わず吹き出す薫。  剣心は一呼吸置いて、改めて薫の顔を覗きこんだ。
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