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薫自身、店で見かけてずっと欲しかった指輪。一緒に買いにいけたらいいなと思い、今日一大決心して誘った。だが同じ物を彼は既に用意していてくれた。
華やかな演出など、用意できなかったと言ったけど、その方が剣心らしくて嬉しかった。
耳まで真っ赤になりながら、プロポーズしてくれた。
自分の誕生日に合わせて、待っていてくれた。
去年のこの日、突然指輪をくれたのには驚いた。後で聞けば、妙さんが剣心を急かして準備させたといっていた。だから少し意地悪してみた。
「もっと大きなのがいい」って。
だって彼の本心で用意したのじゃないのなら、全然嬉しくなんかない。だからわざと右手にはめた。自分で。
その意味を剣心は気付いたのか判らないけど、態度に出ないから。
だけど、気持ちはほんの少しでも届いたみたい。
判りやすいように、今年一番に剣心の部屋にある暦に書いた。
“神谷薫、十八歳”って。
後、着物も新調した。恵さんと一緒に選んだ着物。少し奮発して買った西陣帯と、螺鈿のかんざし。
彼は気付いてくれたかな。
「似合ってるでござるよ」
剣心は薫の髪飾りにそっと触れた。
今度は薫が耳まで真っ赤になった。
「有難う」
剣心は薫の左手をとり、指輪にそっと唇を触れた。
剣心の紅い髪が指に絡んで少しくすぐったかった。
薫は空いた右手でその紅い髪をすくいあげた。
左頬の十字傷が見えた。
「剣心。私ね、約束する。もう貴方を独りにしない。流浪になんか行かせない。これ以上傷を増やしたりさせない。……これ以上…こんな傷…」
「ああ」
十字傷に触れる指が震える。剣心がその指を握った。
そのまま静かに時間が過ぎていった。
薫の頬を伝う涙は途切れることなく、震えも止まらない。
「薫。これ以上…拙者も君を…哀しませはしない。やっと見つけた居場所でござるからな。…愛してる」
そう言うと、薫の顔を引き寄せ、その赤い唇を重ねた。
「さて。居候たちがお腹をすかせて待ってるでござろう。台所へ急ごうか」
「そうね。…剣心」
「ん?」
「……有難う」
「はい。でござる」
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