「箱庭」

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 その日はいつもより気温が高く、蒸し暑ささえ感じるぐらいであった。  六月特有の湿気じみた空気に交じり、昨日まで続いた雨の影響か。  薫は早く起きて身支度を済ませた。  部屋から見える中庭に咲く、露に濡れた紫陽花にも似た藍色のリボン。お気に入りのそれで髪を結わえる。  それに今日は、特別。螺鈿のかんざしも加えた。  今日は特別な日。  大好きな人に、今日こそは想いを伝えようと思う。 「よし。完璧」  もう一度鏡台の前に立ち、全身をくまなく点検し、部屋を出る。  と、左之助にばったり出会った。 「よぉ。おはようさん」 「左之助。おはよう。…早いのね」 「ああ、てか嬢ちゃんも……なんだ?んなに小綺麗にして」  と、左之助は、薫の右手に光る物を見つけた。  確か去年、剣心に貰ったとか言ってたやつか。そう思い見つめていると、その指を顔まで持ち上げた。 「うん。今日はちゃんとしたの、買うんだ」 「あいつとか」 「そう。……覚えててくれてるよね」  薫の背中を軽く小突いた。 「剣心が忘れてるワケ……ないよな。ああ…多分」  薫は一瞬固まったが、大丈夫だろうとの左之助の言葉を信じ、剣心の部屋に向かった。  物音はしない。まだ寝ているのだろうか。  スゥっと息を溜め、襖に手をかける。と、中から衣擦れの音が響いた。それに驚き手を退く。  ほんの短い間だったけど、部屋の前に正座して襖を開ける機会を待つ時間は、薫にとって心臓がはち切れそうな時間であった。  意を決して声をかけた。 「けーんしんっ」  思った以上の裏返った声が出て、隠すように咳払いをわざとした。
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