「伽羅」

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「伽羅」

 朝食時に、弥彦にも伝えた。飲んでいたお茶を吹き出すぐらいに驚いた様子であった。 「ちょっ、汚ねぇなぁ……おい、弥彦?」  左之助は呆然とした弥彦の目の前で手を振る。 「…マジで?…剣心とこのブス…いや、この薫とが?」  二人の顔を見比べるように見つめた後で、こぼした茶を拭きながら落ち着いた様子で深呼吸。 「ま、オメデトさん。…でも剣心はこのまま此処にいるんだろ?…ムコ何とかというやつか」 「有難うでござる。弥彦殿。婿養子というか…拙者は居候の身であったし」  剣心は照れ臭そうに薫を見る。 「この道場を守っていかなきゃいけないしね。今までと何にも変わんないわ」  薫も続けて剣心と目を合わした。 「ま、いいんじゃねぇの?今までと変わらないならさ。…心配すんなって。新婚さんの邪魔はしねぇよ」  何故か急に空気の変わったこの場を離れたいと、左之助はさっさと茶碗を下げて、部屋へと戻っていった。 弥彦も察したのか自室へ急ぐ。 「ねぇ。剣心。明日ね、お墓参りにいきたいの。付き合って?」 「お墓?」 「うん。両親に…」 「そうでござるな。だったらその前に行く所があるでござるよ」  剣心は薫の分の茶碗を下げると洗い始めた。 「いいわよ。私が…」 「大丈夫。指輪、汚れるでござるから。それより」  剣心は薫に着替えるように促した。 「行くでござるよ。赤べこと小國診療所。あと、京都に手紙を書かねばでござろう。……二通も……」  京都?と薫が首をかしげる。 「…ああ、葵屋と……?」 「……師匠に伝えねば殺されるでござるよ」  嫌そうに顔をしかめる剣心に、薫はクスクス笑った。 「驚くかしら。みんな」 「…でござるな。と、よし準備しよう」  話ながらも洗い物を済ませ、何故か昼飯の下ごしらえまで仕上げた剣心に薫は感心するしかなかった。
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