偽りの仮面 ~put on a mask~

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▼ 一時限目の授業は数学だった。 予め予習をしていたお陰で、特に難しい範囲に突入した授業は、難なくついていける。 だが、どうやらそれは私だけのようだった。 黒板に描かれた複雑な図面。 かなり難易度の高い問題。 教壇に立つ教師は、生徒を次々に指名し、そして指名されたクラスメートたちは、唯一人の例外もなく撃沈していく。 そうしている内に、やがて私が当てられた。 一番成績が優秀な私に、お株が回ってきたという訳である。 黒板の前に出て、白いチョークを握る。 クラスメートたちの期待の眼差しが、背中に集中するのを感じる。 ――――吐き気がした。 その感覚を抑え込み、私は問題の解答を黒板に書いた。 すると隣に立つ教師が、苛立たしほどに大袈裟な態度で、 「素晴らしい! 正解です、弓削さん」 教室が感嘆のどよめきに包まれ、忽ちのうちに拍手の嵐が巻き起こる。 それに混じって、彼等の驚く声も耳に届いてきた。 「すごーい!!」 「さっすが弓削さんだな」 「ウチらみんな解んなかったのに、スラスラ解いちゃったよねぇ!?」 「だよなぁ、ヤッパ天才は違うわなぁ」 ……煩い。 私は嬉しそうに照れた振りをしながら、内心でそっと呟く。 教室の熱気とは対照的に、私の心は酷く冷めていた。 それどころか、クラスメートたちの身勝手な発言に、嫌悪すら覚える。 スラスラ解いたから凄い? あんなの予習をしただけの話だ。 自由時間を潰して、したくもない予習をしただけ。 天才? 冗談じゃない。 学生としての本業を全うしただけだ。 アンタたちが努力しないだけじゃない。
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