69人が本棚に入れています
本棚に追加
▼
一時限目の授業は数学だった。
予め予習をしていたお陰で、特に難しい範囲に突入した授業は、難なくついていける。
だが、どうやらそれは私だけのようだった。
黒板に描かれた複雑な図面。 かなり難易度の高い問題。
教壇に立つ教師は、生徒を次々に指名し、そして指名されたクラスメートたちは、唯一人の例外もなく撃沈していく。
そうしている内に、やがて私が当てられた。
一番成績が優秀な私に、お株が回ってきたという訳である。
黒板の前に出て、白いチョークを握る。
クラスメートたちの期待の眼差しが、背中に集中するのを感じる。
――――吐き気がした。
その感覚を抑え込み、私は問題の解答を黒板に書いた。
すると隣に立つ教師が、苛立たしほどに大袈裟な態度で、
「素晴らしい! 正解です、弓削さん」
教室が感嘆のどよめきに包まれ、忽ちのうちに拍手の嵐が巻き起こる。
それに混じって、彼等の驚く声も耳に届いてきた。
「すごーい!!」
「さっすが弓削さんだな」
「ウチらみんな解んなかったのに、スラスラ解いちゃったよねぇ!?」
「だよなぁ、ヤッパ天才は違うわなぁ」
……煩い。
私は嬉しそうに照れた振りをしながら、内心でそっと呟く。
教室の熱気とは対照的に、私の心は酷く冷めていた。
それどころか、クラスメートたちの身勝手な発言に、嫌悪すら覚える。
スラスラ解いたから凄い? あんなの予習をしただけの話だ。
自由時間を潰して、したくもない予習をしただけ。
天才? 冗談じゃない。
学生としての本業を全うしただけだ。
アンタたちが努力しないだけじゃない。
最初のコメントを投稿しよう!