69人が本棚に入れています
本棚に追加
「いやぁ…毎度毎度、弓削さんには感心させられますねぇ」
拍手が止むと、隣にいる教師が、私に柔和な微笑みを浮かべた。
「前もって予習をしっかりしていたのかな? 弓削さんは真面目ですねぇ…」
――――びしり、と。
私の心に、亀裂が入った。
真面目。
教師は私に賞賛の言葉を贈ったつもりなのだろう。
だが私にとって、その言葉は呪いのようなモノだった。
いや、むしろ呪いそのものだった。
真面目、真面目、真面目。
幾度も言われ続けてきた、言葉。
真面目?
違う、私は真面目なんかじゃない。 単に、真面目を装っているだけだ。
本当は予習なんてしたくない。
勉強なんてしたくない。
別に良い成績なんて取りたくもない。
私へ囁かれる『真面目』という呪文は、自身を偽っている事に対する証明に他ならない。
真面目と言われる度、オマエは嘘つきだ、と罵られている気持ちになる。
否、気持ちになる、ではない。 正にその通りなのだ。
面と向かって『この嘘つきめ』と罵倒されるのと同じなのだ。
胸が詰まり、息が苦しくなったような錯覚に陥る。
私を呪う教師の横っ面を、殴り飛ばしてしまいたい衝動に駆られる。
…いや、殴り飛ばしてしまおう。
そうだ、それがいい。
もしかしたら、それこそが“本当”の―――――――
だが。
「あ、あはは、そんな直球で誉められると照れちゃいますよ、もぉ~」
私の口から出たのは、内心とは正反対の、そんな言葉だった。
最初のコメントを投稿しよう!