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「そんなの、とは心外だわ、霙(みぞれ)。 わたしの唯一の愉しみを、そんな風に呼ぶだなんて」
鈴のように透明な声で応え、苦笑する夢叶。
その僅かな表情の変化すらも、息を呑むほどの美しさがある。
そんな彼女の言葉を、霙と呼ばれた幼い少女は、当然のように受け流した。
「そんなのはそんなのだよーだ。 だってゆかな、“現実世界(そと)”にいる時以外、ずっと鏡とにらめっこしてるんだもん、つまんない」
「“現実世界”に居なければ、わたしは此処にしか居ないでしょう? 此処では、これ位しかするコトがないのよ。
それに、他人の思い出を“視る”のは、とても面白いわ」
恍惚とした表情を浮かべる夢叶。
その態度が気に入らないのか、霙は頬をぷくっと膨らませた。
「みぞれだって、人間を見るのは好きだよ? でもゆかなが“視て”いるのは、今までみぞれたちが見てきた物語ばかりじゃない。 前に直接見たコトあるのを、もう一回“視た”ってつまんないもん」
「だからこそよ、霙。 以前に見た記憶を、こうして改めて見直すからこそ面白いの。
そう…人間が自分のアルバムを捲り、己が過ごした日々を懐かしみ、楽しむようにね」
「それこそ判んない。ゆかな、だってそれ、人間の楽しみ方じゃない」
「あら? アナタが“現実世界(そと)”でソフトクリームやたい焼きを食べるのは、人間の楽しみとは違うのかしら?」
「ぅ……」
言葉に詰まる霙。
そんな少女の反応が面白かったのか、夢叶はクスクスと妖艶に笑う。
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