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―――そう。
確かに、あの願望は、弓削琴羽が最も望んでいたモノだった。
しかし、彼女が夢叶の前に現れた時、心の底から望んでいたのは、『偽りの自分ではなく、有りの儘の私を、全ての人に受け入れて貰う』という願いだったのだ。
そんな琴羽の願いを、もし、夢叶がそのまま叶えていたのなら。
或いは、違う結末になっていたのかもしれない。
最も、琴羽自身はそれに気づくことなく、夢叶はそれを理解した上で、あのような行動に出たのだが。
「もう…いつもはあんなコトしないのに。 どうしてなの、ゆかな?」
聞くまでもない、と思いつつも、霙は訊ねる。
何だかお気に入りのおもちゃをなくされたようで、少し嫌な気分だったからだ。
そんな幼い少女の質問に、夢叶は、心底愉快げな笑みを浮かべ、
「だって、その方が面白いじゃない。 どうせ“視る”なら、より刺激的なエピソードの方が、遥かに素敵なんだもの。 人間の織り成す、物語は、ね…」
頬を蒸気させ、恍惚とした表情で。
熱い吐息を吐き出しながら、悪びれもせず、そう答える。
――――それが、夢叶という女の在り方だった。
良心、などというモノは持ち合わせていない。
全ては、自分自身の為。
只、己が欲求を満たしたいがために人間に関与し、そして願望(のぞみ)を叶える。
そうした人間が、どの様な末路を辿るのか。
その過程と結末を“視る”ためだけに。
「霙…アナタもどう? きっとそのうち、病み付きになるわよ……?」
クスクス笑いながら、自分の趣味を押し付けてくる夢叶。
そんな彼女に、霙は心底呆れた表情で、首を横に振るのだった。
「絶対、やだ」
【偽りの仮面
~put on a mask~】
end
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