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ここ十数年で急速に発展した、十並市の市街地。
「都会」という言葉を絵にしたような街。 ビルやらマンションやら店舗やらがごちゃごちゃと並び、何処へ行こうとも、人々のざわめきは何時も絶えない。
そんな都会の光景の一部である、七階建てのマンションが私の自宅だ。
バスに揺られること二十分。
そうして通う学校―――盟欄学園は、市街地を少しだけ抜けた先にある。
バスの窓から、流れ行く外の景色を眺める。 目に映るそれらが、徐々に学校へと近付いていく。
それに比例して、私の憂鬱も、少しずつ靄を拡大させるのだった。
いつもの朝。
何も変わらぬ、いつもの朝。
全てが同じ、いつもの朝。
また、変わらぬ偽りの日常が始まる……。
ガラガラ、とドアを開け教室に入る。
途端、まるでパーティーの主役が来場したかのような騒ぎになった。
「おはよっ、弓削さん!!」
「あ、弓削ちゃんだー、おはよー」
「おぅ弓削。 今朝も早ぇじゃん、部活もやってねぇのに」
席に着き、各々に雑談を楽しんでいたクラスメートたちが、皆一斉に私へ声をかけてくる。
そのどれもが、友好的な笑み。
入学して一ヶ月。 最早、見慣れてしまった光景。
そんな彼らの態度に私、弓削 琴羽(ゆげ ことは)は、普段通りの、思いっ切りにこやかな“笑顔の仮面”を張り付け、
「おはよー! やぁ、今日もイイ天気だねぇ」
自分でも気持ち悪いくらいの明るい態度で、皆の挨拶に応えた。
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