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もう慣れてしまった、その行為。
最早止めたくても止められない、嘘の笑顔。
何も変わらない、偽りの自分。
繰り返し。 繰り返し。
そうして私は、皆の理想である『弓削 琴羽』を作り出す。
呼吸をするかのように自然な動作で、私は内心の憂鬱を隠し通す。
窓際へ向かいながら、机に座る女子の頭を軽く小突いたり、ロッカー前で談笑する男子に満面の笑顔で笑いかけたりなど、さり気ない明るさのアピールも忘れない。
窓際の後部にある自分の座席に着くと、待ってましたと言わんばかりに、数名の女生徒が私の周りを囲んだ。
「おはよう弓削さん! あ、今日は何時もより、髪サラサラだねー♪ 羨ましいなぁ…」
馴れ馴れしく私の髪を撫でつけながら、耳障りな甲高い声で喋るクラスメート。
何度聞いても、癪に障る話し方だ。
……それは誉め言葉のつもり? それとも単なる妬み?
私は別に何も変わらない。
軽く櫛を入れただけだ。
生まれつきこういう髪の質なのに。
妬んでる暇があるなら、美容院なり何なり行けばいいのに。
そんな内心の想いを隠して、私はやはり笑顔で対応する。
「あっはは、バレちゃった?ちょっと早起きして、頑張ってみたんだー♪ だから実際、ホントは舟橋さんのがずーっとイイ髪してるよ」
大袈裟に手を振りながら、ちょっぴり誉めてやると、彼女は『えー? そんなことないよぉ』などと否定しながらも赤面した。
それで、終わり。
満足したのか、舟橋は機嫌良さげな足取りで、自分の席へ戻っていく。
しかし、私の席の周りには、まだ何人かの女子が纏わりついていた。
我が先にと身を乗り出し、次々と私へ話しかけてくる。
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