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「ねぇ弓削さん、昨日のドラマ観た?」
観てないわ。
私、作り話は好きじゃないもの。くだらない。
「弓削さんってさ、サッカー部の阿部クンと仲いいよね?」
別に?
あっちが勝手に話しかけてくるだけよ。
正直ウザったいわ。
「弓削さーん……ウチ、前髪切りすぎちゃったんだけど…変じゃない……?」
知らないから。
アンタの髪型なんていちいち覚えてないし。
変だと判ってるならそれでいいじゃない。
わざわざ訊かないでよ、鬱陶しい。
どうでもいい、意味のない会話。
私にとってみれば、苦痛以外の何でもない時間。
しかし、私はクラスメートらの問いかけに対し、感じたことの一切を封じ込め、隠し通す。
面倒だが、話一つ一つを懸命に聞いたように振る舞い、会話の内容に合わせて、ころころと表情を変える。
そして、彼女たちが欲する通りの返答をしてやる。
只それだけで、クラスメートたちは満足げな反応を示し、各々の席へ戻っていくのだった。
そんな風にして、私は、皆の望む『弓削 琴羽』を演じていた。
毎日、毎日、毎日、毎日。
繰り返される日々。
私は偽りの仮面を被り、完璧な自分を演じ続けている。
例え、今すぐに止めたくとも。
それが、私自身を精神的に追い詰める行為になろうとも。
私は『弓削 琴羽』を演じるのだ。
否、演じ続けることしか、出来なくなってしまったのだった……。
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