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夜明け前に見る夢は、血に伝えられる記憶だと、巫女に任ぜられる前に聞いた。
ただ白いばかりの世界の中で響く声。
め ざ め の と き
……今朝方の夢は、今までと異なっていた。
夜着を脱いで身を清め、日常身に着ける簡素な衣に袖を通す。
杜の中央に位置する封印の間に足を運ぶのは、巫女の日課。
広く、静かな封印の間には、子供の背丈程の御影石が奉られている。
「………」
静かな足取りで巫女は御影石に近付き、凝視した。
封印の間に響くのは、衣擦れの音と
小さな嘆息。
「……てっきり、伝え語りにある護鬼が目覚めるかと思うたのだがのう」
落胆ではなく、ただ息を吐く。
「ほんに眠りについておるのかのう」
たおやかな手が、衣擦れの音と共に御影石に伸び……
触れる
遠くで呼び声がした。
しかし巫女は声よりも気配に反応し、静かに立ち上がると身を翻した。
足音が遠ざかり、誰もいなくなった封印の間。
そこに静かに響く鼓動に気付く者は、いない。
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