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「……なんじゃ、うぬは」
杜の入口に、見知らぬ人がいた。
一見、人間の男のようだが、着衣は乱れ、視点は定まらず、顔色に至っては青いを通り越して土気色になっている。
巫女は静かに目の前のモノを見た。
「……我の力は、衰えるには早過ぎるがのう」
視線を外さずに嘆息する様は、異質なモノを目の前にしてなお、落ち着き払っている。
「うぬのような雑鬼が入り込むとはな」
途端、男の姿が揺らぎ、膨れ上がった。
内側から皮を喰い破るように異質なモノ――
邪が現われた。
闇が形を成し、人の男より大きな姿へと変わりゆく。
針金のごときゴワゴワの黒い毛に全身覆われ、爪は長く鋭い。
闇から形を成した割には実体があり、骨格は自在に変化してゆく。
そして邪は、人型に近い姿を取った。
口元と思しき場所が歪み、耳障りな音が発せられる。
『ワ、レ、を雑鬼、ダ、ト…ワ、レ、は』
「ならば言を改めようぞ」
――雑魚が
言葉と共に、巫女は練り上げていた霊力を右手先に集中し、放った。
杜の中央に位置する封印の間。
響き渡る鼓動が、巫女の放つ霊力に反応し
御影石は内側から砕け散った。
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