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その花は
満月の夜に咲くという
「着いたよ」
一面に広がるは花畑。それは夜にだけ咲くので、人々からはこう呼ばれていた。
「……洸鐘花(コウロウカ)」
月明かりに輝く、淡く儚い紫の色が、風に揺れる。
「一度でいいから見てみたいって言ったの、キミだろ?」
少女の反応があまりにも普通だったので、彼は少し意地悪く言い放った。
今日は城内警備の日だったのだけど、彼女がどうしてもと言うから、こうしてサボって来たのだ。
「…………ええ」
そう答える彼女の顔に、笑顔はない。喜んでくれると思ったのに……。
「ありがとう、イヴェール」
心なしか、彼女の声が固い気がする。
小鳥が唄うような、軽やかで華やかな声は、見る影もなく。
「……どうしたんだよ?キミらしくもない」
本当に、らしくない。
いつもならここに着いた途端走り回って、花畑に倒れて、満月を見て、笑いあって……彼女はいつも自然を肌で感じ、愛そうとしていた。
それなのに。
「あのね、イヴェール」
「ん?」
彼女は一拍おいて、
「もう時間切れ、みたいなの」
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