Obbligato

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 「てめぇ! てめえも動くんじゃねぇぞ!」  頭に血が上っているスタームは唾を飛ばして怒鳴る。  「てめぇが動いたら、ここにいる全員を殺すぞ!」  やれやれ、とジンクスは肩を竦める。仮面に隠された顔が呆れたように笑ったのが分かった。  「君に穏便を求めるだけ無駄だったようだね」  ジンクスは小さく溜息を吐いた。  「紳士、淑女の皆様。頭上にご注意ください。お近くの方々とはぐれないよう、お願いします」  言うやジンクスは力強く足場を蹴った。黒いマントがコウモリの翼のように翻り、トリガーの視界から太陽を遮断する。  「ジィィィィンクスッッ!!」  激昂したスタームが叫び、人質としていた男の腰から奪った銃を乱射する。  ジンクスはたやすく銃弾を躱し、スタームの注意を自分だけに引き付けながら絞首台へと走る。  「頭を伏せろ!」  腰のサーベルを抜きながら、ジンクスはスタームの人質に命じた。  男は首にロープを回されているにもかかわらず、思い切り頭を下げた。  不意に力のバランスを崩されたスタームが、男の首に回していたロープの力を緩めた。隙を逃さず男が台から飛び降り、直後ジンクスが投げつけたサーベルが、スタームの衣服を突き破り、大男を柱に縫い付けた。
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