Obbligato

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 自分の力量を正確に理解していなければ、このスラムでは生き残れない。  自分を過信した者が辿る末路は、いつも同じ───例えるなら、ロバの災難だ。  スラムを一歩でも出れば、その色は更に濃厚になる。  そんなことはトリガーも分かっている。  分かっていても、どうしてもトリガーには感情のコントロールが出来ない。一度でも怒りを感じてしまえば、それだけしか考えられない。  固く拳を握って唇を噛むトリガーに、ハルトは落ち着いて声をかける。  「……トリガー。お前に何かあったら、悲しむのはシルフだけじゃないぜ。それは忘れないでくれ」  「───え?」  驚いて顔を上げると、トリガーの視界に白いものが落ちてきた。  トリガーとハルトは同時に冬の空を仰ぐ。  「雪……」  ぽつりと呟いたハルトは、羽織っていたコートを脱いでトリガーに突き出す。  「……何の真似だ?」  ハルトはコートの下はタンクトップ一枚だ。いくらなんでも寒過ぎるだろう。  ハルトは口の端を吊り上げて笑う。  「どうせお前、昨夜もシルフにしか毛布かけてねぇんだろ? 風邪ひくぜ」  「……タンクトップ一枚の方が風邪引くだろ。お前が着てろよ」  トリガーは照れ臭くなって、スラムの方へと足を向けた。
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