19人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
ハルトに悪気はない。ハルトの言っていることは正しい。
スラムで生きていくためには、どこまでも非情になれなくてはいけない。
それが出来ないシルフが、よくぞ無事でいられたものだと、出会った頃のトリガーも思っていた。
「まぁ何にせよ、シルフがお前を頼ってることだけが、今は事実だろ。無理しねぇ程度に助けてやんな。いざって時にゃ、俺も手を貸すからよ」
ぽん、とトリガーの肩を叩いたハルトは、ジーンズのポケットからお気に入りのスタンガンを取り出した。
「そんじゃ、お互い今日を生き残ろうぜ」
「ああ」
今日を生き残る。
スラム・キッズの最大の目標にして、絶対の行い。
スラム・キッズは孤児ばかりだ。大人の助けなど、得られるわけもない。
トリガーが一歩踏み出した時、不意に遠くからやかましい程のラッパの音が聞こえてきた。
「なんだ?」
「あぁ、そーいえば今日だったな、公開処刑」
「公開処刑……?」
眉を寄せるトリガーに、ハルトが浅く頷いた。
「大悪党が捕まって、絞首刑らしいぜ。見に行ってみるか? スリくらいなら出来るかもしれないぜ」
トリガーと違って、一時期は孤児院で教育を受けていたハルトは、きちんと字の読み書きが出来る。
恐らく公開処刑のことも、拾った新聞か何かで知ったのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!