Obbligato

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 「ジンクス……!」  誰かが息を呑んで叫び、そのどよめきが波のように処刑場に広がる。  「ジンクスだ!」「ジンクスだ!」  「おい、誰だよ、あの男」  トリガーが眉を寄せてハルトを見ると、傍らに立つ彼は珍しく興奮した様子で、男に見入っていた。  「あいつがジンクス……! まさか本物を見ようとはな!」  「人の話を聞けよ。ジンクスって誰だ?」  「あの男こそがジンクスだ。誰もその正体を知らない。正義の味方と、表通りじゃ専{もっぱ}らの噂だぜ」  トリガーの眉間に深い皺が刻まれる。  正義の味方。そんなものがトリガーは大嫌いだ。スラム・キッズとして過酷な日常を生きるトリガーから見れば、正義の味方なんていうものも、所詮は汚い大人の勝手な都合だけで人を助ける、汚い存在だ。  スラム・キッズに投げつける侮蔑的な視線は、どうせ変わりはしない。  固く拳を握ったトリガーは、人さえ射殺せそうな激しい目で男を睨んだ。  ジンクスは黒いマントを風にはためかせながら、スタームに言う。  「さぁ、スターム君。その男を殺してみ給え。その前に君の命はないがね」  「く……っ!」  「スターム君。君も男なら、ここは紳士的に事を運ぶことをお薦めするよ」
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