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サンドラーナは目を逸らしてしまいたい衝動を抑え、友人とも言えなくない男に
「――楽に……楽になりたいですか?」
最後を問った。
奥歯がぎちりと嫌な音を発てる。
震えてはいけない。死を前にして余計な恐怖は与えてはいけない。
サンドラーナの見守る中、『聖刻』が肩まで到達した男は痛みに喘ぎながらも己の最後を悟り、縋っていた手を離した。
助からないのだ。歴代の『聖刻』の主がそうであった様に…… また自分も同じ運命を辿るのだ。
20年前のあの日、『御神体』になる事を拒めれば違っていたかも知れない運命だが……
今となってはもう遅い。自分は『御神体』となり、国の繁栄のため精霊をこの身に宿したのだから。
「有…難う…… サンド…ラー…ナ――」
その言葉を最後に男は永遠の眠りについた。
サンドラーナの手には儀礼用の剣が握られていた。そしてその剣は男を背から一直線に貫いている。
「おやすみなさい……ジョアン」
20年以上も呼ばれる事のなかった男の名をサンドラーナは呟いた。
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